むじん図書室

オススメの本、映画、音楽、ときどき日常のことなどを語る部屋です。不定期に出没します。

【913オ】薬指の標本

小川洋子さんの小説「薬指の標本」を読みました。

夢なのか…現(うつつ)なのか…。
小川さんの小説を読んでいると、水の中をたゆたうような、不思議な浮遊感を感じます。
この感覚を無性に味わいたくなるときがあるのですよね。
文章もなめらかで心地よいです。

■「薬指の標本」…短編

標本室で働くようになった私。
そこは、思い入れのあるものを標本にしたい、という人々が訪れる場所でした。
標本といっても、別れた恋人から贈られた音や…火事で負った火傷、など通常では考えられないものもあります。

よく考えると「標本」って…時間を封じられたまま生きる魔法みたいです。
うっとりと見とれてしまうときもあるけど、このままでいいのかしら…と、どこか後ろめたさも感じてしまう。

どの作品もそうなのですが、
ろうそくで灯したような童話のような温かさと、コンクリートのような無機質な冷たさが感じられ、
その2つのバランスが絶妙なのが小川洋子さんの小説の特徴かな、と思います。


■「六角形の小部屋」…短編

プールで出会ったなんの変哲もないおばさん。
妙に惹かれた私が跡をつけてみると、そこには集会所があって…。
六角形の小部屋がありました。

この話も、ありそうでないような…。
広告や宣伝もないのに人が集まる、ってやっぱり魔法がかっているなぁと思います。
主人公が眠りに落ちるシーンがとても印象的でした。

この世の誰しもがもしかしたら、自分だけの秘密の小部屋、標本にしているもの、を持ち合わせているのかもしれません。ひそかに。ひそやかに。🙊